波が寄せる長崎港から船に乗り、端島を目指す。風は冷たいがデッキ席に上る。防寒用のスタジアムコートを借り受け、寒さをしのぐ。速度を上げる船はそれほど揺れない。ガイドによる説明に耳を傾けていると、1時間ほどで船は端島に近づいた。
端島の桟橋は船渡し事業者により接岸時刻が決められているらしく、その時間が到来するまで、端島の北を回り西側沖へ移動する。西側は揺れる。船が低速になると、揺れはなおさらひどい。
北側沖からは、小中学校、病院の建物が面前に臨める。割れたガラス窓、落ちた壁、途方もない時間の経過を思い知らされる。
西側沖から島全体を見ると、軍艦島と呼ばれる所以を知る。めぐらされた護岸が船体のごとく見える。
住居の多くはうねる波が高い西側に建つ。無数に開く建物の窓に人の暮らしはない。船上の人々は無口だ。まるで言葉を忘れたようだ。
接岸の時刻が来た。間近に見る端島は日本の地とは思えない。廃墟が迫るからだ。想像を越えたありように船酔いを忘れる。手際よく接岸された船から足元に注意しながら上陸する。通路を進むと、最初の見学ポイントだ。
石炭を選別する選炭場跡、高台の貯水槽、幹部用のアパートなどが見える。北に目をやれば、小中学校などを遠目に臨むことができ、その手前には赤レンガの壁のみが残っているのが分かる。数年前の台風で学校の天井が壊れたとの説明を受ける。刻々と崩壊は進んでいるようだ。
次の見学ポイントに向かう。総合事務所跡を正面にする。赤レンガ造りであったことがわかる。イギリス積みのようだ。建ち残る壁のアーチ窓が反映の面影を伝える。総合事務所の北隣には巻揚げ機の櫓の土台部分が残る。地下600mを超える竪坑があったそうだ。ここから人と石炭が行き来をした。
最後の見学ポイントに移動する。島の南に位置する。ここからは日本で最も古い鉄筋コンクリート造りの集合住宅を見ることができる。30号棟と呼ばれる建物は黒ずんだ壁で、今にも崩れ落ちそうな恐怖感がある。30号棟の西隣に建つ建物は31号棟で、不要となったボタを搬出するベルトコンベアーの先端が窓から突き出ていた。
島の中央部、最も高い場所に白い塔が立つ。灯台だ。太陽電池で稼働している。人のいない島は暗く、船舶の安全運航のために立てられたらしい。
上陸の時間は40分ほどであろうか。あっという間だった。船は、一直線に長崎の港を目指した。
軍艦島へ上陸する定期船は5業者が提供しているらしい。
□
端島炭鉱(軍艦島)
長崎県長崎市高島町端島
長崎市HP
端島見学施設利用料:300円(船渡し料とともに支払う)
撮影:2014/11/18