国道57号から続く進入路は石が敷き詰められ、両側には行き届いた手入れの植栽が連なる。物静かな気品と風格が来客を静かに歓待する。
1935年10月10日10時に開業、80年の歳月を経たホテルは、スイスシャレ―様式をとり入れた地下1階地上3階建てである。1階と地階は鉄筋コンクリート造で2階3階は木造である。屋根には瓦が葺かれている。
深い色合いの木製扉を開けるとエントランスホールが迎える。壁には登録文化財、近代化遺産であることを示すプレートが掲示されている。
金色のドアノブを回すとロビーである。
明るさを抑えた照明と2階へ続く階段の窓からカーテン越しに入り込む自然光が柔らかい空間を保つ。四季の花であしらった生花は清楚に空気を飾り、天井は深い色調の木と柔らかく落ち着いた色でもてなす。壁や階段の柱は斧で削った跡を連ねたデザインで統一され、光の方向や加減で様々な表情を見せる。
フロントの側にひときわ目を惹く振子時計がある。一目で長い年月を刻み続けてきたことが想像できる。創業数年後に設置されたようだ。
ロビー左方の階段を上がると右手にバーがある。カウンターに4席、落ち着いた意匠の椅子が並ぶテーブル席も用意されている。壁には暖炉が設けられている。冬の日には薪に火がともされるのかもしれない。
ダイニングは200畳ほどの広さで、高い天井は柔らかい白色を引き締めるように深い色合いの木が走る。壁は褐色や深い色合いの木板が用いられ、テーブルクロスと料理を際立たせる。床には硬い木板が敷き詰められ、いくつもの時代の出来事を支えてきた。
ロビー右方へ進むと、図書室とビリヤード室が控える。図書室の天井は円形に曲を描く木を用いたトラス形状のデザインが目を惹く。図書室にさえ山小屋風の室内を実現させる拘りは、徹底したもてなしの心を垣間見るようだ。
図書室を過ぎ格子戸の扉を開けると、地階の浴室へつながる階段が右手に現れる。ソファーが並ぶリラクゼーションコナーの側が浴場入口である。脱衣所は深い色合いの木とアイボリー調の壁で迎える。浴室は半円形で、12のアーチが天井を構成する。艶やかな乳白色の色合いと扉のステンドガラスが洋風浴場の印象を強くさせる。
ホテルのサイトによれば、建物は2004年から2012年まで6期にわたり改修が行われた。外壁、客室、図書室、浴場など大規模な改修だった。古い建物の良さを守りながらも近代的な快適性を追求するための改修だったようだ。
僅かな滞在時間にもかかわらず心落着く時を過ごした。歴史に加え、ホテルに働く人々のもてなしの心こそがこのホテルの魅力を深めているのかもしれない。
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雲仙観光ホテル
雲仙市小浜町雲仙320
0957(73)3263 HP
国指定登録文化財
竣工:1935年10月10日
設計:竹中工務店(早良俊夫)
客室:39室
撮影:2015/10/12