日常生活や観光移動を支える長崎の路面電車には、長い年月を重ねた車両も使われている。168号は1911年に製造され、九州電気軌道(後の西日本鉄道)の車両としてこの世にデビューした。
特徴のひとつは木製車体であることだ。塗装されているため一見しただけでは気付かない。1959年2月、168号は長崎電気軌道に譲渡される。現在の168号は営業運転には使用されていないようで、催事運行以外見ることも乗ることもできない。この日は「路面電車まつり」。車庫の一角で来客者を迎えていた。
深いあずき色の車体は渋く輝く。屋根の一部は高い造りで、明かり取りのような横長の窓が設けられている。台車は米国J・Gブリル社製。カーブ通過が容易で乗り心地も良いといわれるボギー台車が採用されている。
車内には赤いシートが左右に対面して配置され、つり革が下がる。運転席に椅子や仕切りはなく運転台を容易に覗き見ることが可能だ。窓枠、手すり、室内灯など時間を重ねた造形は柔らかい印象を与える。床も木製で、様々な乗客の足元を守ってきたのだろう。
動く168号を体験することはできなかったが、シートに座ると移り変わる長崎の風景が窓に映し出されるような気がした。
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長崎電気軌道168号
長崎市大橋町4-5 浦上車庫
095(845)4111 HP
製造:1911/5
製造者:川崎造船所
木製車体(ボギー車)
米国ゼネラルエレクトリック社製電動機
米国J・Gブリル社製台車
エアーブレーキ採用
自重:14t
定員:66人
撮影:2015/11/15