JR人吉駅から南へ5分ほど歩くと球磨川に架かる人吉橋と出会う。橋の手前から右へ細い道を進むと人吉旅館が迎える。玄関横には一枚板に書かれた「人吉旅館」の文字、圧倒される。入母屋の屋根と支える太い柱が慎ましい重厚さを印象付ける。
外光が少ない印象のフロントは天井が低い。時間を刻んだ漆黒の柱や梁が宿の歴史を一瞬にして伝える。あえて抑えられたと思われる人工の光はおぼろ気で優しい。
庭を左にみながら奥へ続く廊下を進む。案内された客室は2階、磨き上げられた廊下は飴色に光る。
客室の天井は高い。フロンの天井とは対照的だ。床の間の壁には組子飾が施されている。質素で品がある。鎮座する焼き物は薩摩美山で、15代続く沈壽官窯の花瓶だ。縁側に出ると球磨川の流れが間近に迫る。
館内の窓は木製である。維持管理には相当な気遣いを要するだろう。歴史を守ろうとする宿の熱意と歴史への尊敬を感じる。
館内には温泉が用意されている。立寄り湯も受け付ける。薄い褐色を帯びた湯は掛け流され、飲用もできる。自家源泉である。
人吉・球磨の戦前戦後を見続けてきた証人は現役だ。宿を育む人々の心が時の仕業に勝っているのかもしれない。
2013年、宿の建物は国の登録文化財に指定された。
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人吉旅館
人吉市上青井町160
0966(22)3141 HP
国登録文化財
木造2階建瓦葺
竣工:玄関棟1933年・東棟1930年・中央棟1933年・西棟1953年
現温泉宿
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撮影:2017/8/10