鳥栖市は道路と鉄道の交差点だ。九州の人と物はこの町を経由し東西南北へ移動する。
明治36年に竣工し翌年から供用を開始された鳥栖駅駅舎は、すでに100年を超える年月を刻んでいる。戦火をも逃れた鳥栖駅駅舎だが、近い将来その姿を消すことになりそうだ。
2016年11月4日に開催された鳥栖市文化財保護審議会の資料によれば、駅舎の軸組構造は竣工当時が維持されているらしい。見える部分において原型が残されているのが、車寄せ柱の基壇、柱頭飾り、正面入り口両側の上げ下げ窓、待合室の折り上げ天井、駅舎の東ホーム下屋の鼻板飾りらしい。
実際に見てみると、水色に塗られた柱を支え飾る意匠は今の時代にはないモダンを感じる。プロサッカーチームサガン鳥栖の旗を明治生れの文化が懐深く見守っているようだ。
待合室に入り見上げると一段高い天井に気付く。窪みの部分にはデザインが施されている。合理性と機能を追いかける今の公共建築物では採用が難しい意匠だ。明治から今日まで、この天井の下をどれだけの人々が通過したのだろう。
駅舎の北側には自由通路のエレベーターが用意されている。エレベーターの入口から駅舎に隣接するホームの屋根を覗き見上げると、白く塗装された柱や梁に気付く。塗装面は痛んでいる。凝視すると梁の部分には白熱球の形に似た飾り、下野の部分には半円形の飾りが施されていることが分かる。これらが鼻板飾りなのだろうか。
駅周辺の開発に伴い近い将来、駅は橋上化されるらしい。明治生まれの駅舎を見られる時間は残り少ないのかもしれない。
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九州旅客鉄道鳥栖駅駅舎
佐賀県鳥栖市京町709
0942(82)2020
竣工:1903年
設計:不明
施工:間組
構造:木造平屋建て寄棟桟瓦葺
現鉄道駅舎
撮影:2017/9/18